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広島地方裁判所 昭和29年(行)8号 判決

原告 大谷保

被告 広島県知事

主文

被告は原告に対し、金一〇八、八二四円を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は三分し、その二を被告、その余を原告の各負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

原告

被告は原告に対し金一五九、四二四円を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二、請求の原因

一、別紙目録記載の土地(以下本件土地という)はもと原告の所有であつたところ、被告は昭和二九年一月一四日一級国道二号線道路改修工事(広島県安芸郡中野村地内平原橋より同郡瀬野村大字下瀬野に至る三・六八八キロメートル)につき自己を起業者として建設大臣より事業の認定をうけ、同月一九日及び同月二二日に土地細目の公告をなし、本件土地を右事業の為収用することとなつたが、右に伴う損失補償につき原告との間で協議が成立しなかつたので、広島県収用委員会に裁決の申請をなし、同委員会は同年四月二六日次の如き裁決をした。

一、収用する土地の地域

広島県安芸郡瀬野村大字瀬野字下落合

(地番) (地目)(土地台帳面積)(実測面積) (収用する面積)

七六四ノ二 田   四畝二八歩   七畝二五歩  三畝 七歩

七六五ノ一 田     一二歩     一二歩    一二歩

七六六ノ一 田   六畝二六歩   七畝 二歩  四畝二四歩

一、収用による損失補償金 金九三、五七六円

一、収用の時期      昭和二九年四月三〇日

二、しかしながら本件土地の右裁決時における価格は少くとも反当り金三〇〇、〇〇〇円と評価するのが相当であり、右価格により算定した金二五三、〇〇〇円の補償がなされるべきである。よつて被告は原告に対し右金額二五三、〇〇〇円から前記補償額を差引いた金一五九、四二四円を支払うべき義務がある。

第三、請求原因に対する答弁

請求原因一は認める。

請求原因二は争う。

右裁決に当つては近傍類地の取引価格、売買実例、参考人の陳述、その他諸般の事情を斟酌して正当な補償額が決定されたものである。更に又本件土地は国鉄山陽本線のすぐ下に位置し、本件道路が敷設されるまでは旧国道と山陽本線に囲まれた全く袋路的な田であつた。又現在においても本件土地附近には一軒家屋が建てられているのみで他は依然として田である。よつて本件土地は宅地見込地として評価されるべきでない。

第四、証拠関係〈省略〉

理由

一、本件土地が原告の所有であつたこと、被告が昭和二九年一月一四日一級国道二号線道路改修工事につき起業者として建設大臣より事業の認定をうけ同月一九日及び二二日に土地細目の公告をなしたこと、損失補償につき原・被告間の協議がととのわず広島県収用委員会が原告主張の如き裁決をしたことについては当事者間に争いはない。

二、原告は右裁決当時の本件土地の価格は少くとも反当り金三〇〇、〇〇〇円であるから、右を規準とすれば、補償額は金二五三、〇〇〇円をもつて相当とすべきであると主張し、被告は広島県収用委員会の裁決は近傍類地の取引価格等諸般の事情を斟酌してされたものであるから正当であると主張するので以下本件裁決による補償額が相当か否かを判断する。

(一)  成立に争いのない甲第一ないし第四号証及び証人満田賢三、同安原清松、同小字羅正見の証言によれば、昭和二八年六月頃瀬野中学校の運動場用地として瀬野村が買収した農地は、反当り平均金一九八、〇〇〇円であつたこと、また、右買収農地の替地として提供せられた訴外小字羅正見の所有地については反当り金二八〇、〇〇〇円で買収したこと、右買収用地は本件土地より農地としては等級が下であつたことが認められる。

又証人辻馨、同石津恭三、同上田義夫の証言によれば、昭和三一年二月頃決定した瀬野村から熊野町へ通じる県道改修工事について、右用地は反当り最高は金六〇〇、〇〇〇円、最低は金四八〇、〇〇〇円で買収され、右については施行者たる広島県は反当り金二八〇、〇〇〇円しか出さず他は寄付等でまかなわれたこと、但し右買収の相手方は五名しかなく且つ買収前に買収用地を反当り金四〇〇、〇〇〇円で買つた人があつたと言う特殊事情があつたこと、右は当時の瀬野村の売買価格から言えば通常よりやや高価だつたこと、買収土地は本件土地より場所的には瀬野駅に近かつたことが認められる。

以上の認定を覆すにたる証拠はない。

(二)  成立に争いのない乙第二号証、証人松長一二、同小宇羅正見、同安原清松の証言及び鑑定人松永清秀の鑑定の結果によれば、本件土地は昭和二九年四月頃は原告屋敷と国鉄山陽本線との間にあつた田で畦畔道路の他公道に至る道はなかつたが、現在は右山陽本線瀬野駅から西方約五分の郊外バス(芸陽)瀬野大橋駅附近の一級国道二号線の敷地になつており、残地は田地として耕作されていること、昭和二八年以後瀬野村では急速に地価が上つており、駅前附近では農地として売買されても使用目的は宅地であること、本件土地より瀬野駅に近い下瀬野九四一の一〇に道路に面した農地を有する訴外松長松太郎は右を宅地として昭和二九年一二月に坪当り金一、五〇〇円で譲渡していること、右と一〇間位はなれた所にある訴外西本所有の四坪の土地は昭和三〇年の暮頃、金一六三、〇〇〇円で売却されたことが各認められる。右認定を覆すに足る証拠はない。

土地収用法第七二条にいわゆる相当な価格とは、土地の現在の地目にかかわらず、むしろその客観的利用価値によつて判断すべきところ、右には当該収用の事業の施行に期待することによつて生ずる価格の騰落も算入されるべきであるが、国鉄瀬野駅が同広島駅より汽車でわずか二五分前後の地点にあることは当裁判所に顕著な事実であり、本件土地附近は一級国道二号線敷設により以前にまして便利となることが予想せられ、これに前記認定事実を総合して判断すると、本件土地はむしろ宅地見込地として評価されるべきであると考える。

(三)  右(一)、(二)の認定及び判断に立脚して鑑定人松永清秀の鑑定結果によると、本件土地の昭和二九年四月当時の地価は反当り金二四〇、〇〇〇円と認定するのが相当である。右認定に反する鑑定人太田善三の鑑定結果は当裁判所は採用しない。

(四)  被告は本件土地の収用価格は近傍類地に比較し相当であると主張するけれども、成立に争いのない乙第一号証、第四号証の一、二、三、第八号証の一、二によれば、本件土地は単に農地として反当り金五四、〇〇〇円と評価されたにすぎず、更に乙第一号証中の売買実例調にあげられた諸例の土地が本件土地と類似の条件をそなえた土地であると認めるにたる証拠はないのみならず、他に被告の主張を認めるにたる証拠はない。

三、そこで、前掲の通り金二四〇、〇〇〇円で本件土地の相当収用価格を算出すれば右は金二〇二、四〇〇円となり、右金額をもつて本件土地の損失補償額とするを相当とし(離作料その他の損失については本訴において原告が主張していないから、これを判断しない)、広島県収用委員会の裁決による補償額は金九三、五七六円であるから、前掲当裁判所の算出した損失補償額から右を控除した金一〇八、八二四円を被告は原告に支払わなければならない。原告の請求はその限りにおいて正当として認容すべく、その余は失当として棄却し、訴訟費用については民事訴訟法第九二条によつて主文の通り判決する。

(裁判官 胡田勲 永松昭次郎 笹本淳子)

別紙

目録

広島県安芸郡瀬野村大字瀬野字下落合

一、七六四番地の二 田 四畝二八歩(土地台帳面積)のうち三畝 七歩

一、七六五番地の一 田   一二歩(同     )のうち  一二歩

一、七六六番地の一 田 六畝二六歩(同     )のうち四畝二四歩

右合計 八畝一三歩

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